◆大浦の雌豹◆
長崎:大浦地区 |
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| 新宮 馬之助 | ここです。 |
| 沢村 惣之丞 | 今のところ使っているのは2隻。 |
| 近藤 長次郎 | わしが武器を長州に運んで以来 どっちも動かしてないがです。 |
| 池 内蔵太 | そうかぁ。 武器運びは饅頭屋がやったがぁ! おんしゃやるのう!! |
| 安岡 金馬 | うちで一番勘定上手いの長次郎やき。 |
| 赤根 武人 | 商売をするのなら僕ももっと勉強しておかなければなりませんね。 |
| 藤崎 誠 | それにしても、これが亀山社中の所有する船ねぇ……。 ラムもなければ砲門も数えるほどだし…… ……なんか、どっちかっていうと普通の商船って感じだな。 っていうかラムは絶対なきゃダメだ!!! ラムがない船なんか船じゃない!!! あのトゲトゲがなくちゃ可愛くない!!! |
| 岡本 健三郎 | なっ、なんて我が儘な人ながや! |
| 望月 亀弥太 | ……藤崎独特のこだわりはどうでもええけんど ……やっぱりどーもパッとせんのう。 これで戦もするんやろう? |
| 陸奥 宗光 | うん。そうなりますね。 |
| 池 内蔵太 | 不安やにゃぁ…… |
| 藤崎 誠 | よし!改造しようか! |
| 平井 加帆 | ま、また改造ですの!? |
| 藤崎 誠 | いいからみんな手伝え!! 最強の船にしてやる!! |
| 高松 太郎 | えっ!?商売するんじゃなかったがですか!? |
| 新宮 馬之助 | 来るなり戦準備とは……藤崎さんららしい言うか…… |
| 藤崎 誠 | つべこべ言わずにキリキリ動け!! |
| 千屋 寅之助 | ひぃっ!! |
――というわけで 約1ヶ月後…… |
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| 藤崎 誠 | ふーっ!2隻とも改造完了!! |
| 平井 加帆 | うふふ。結構楽しかったですわ! |
| 安岡 金馬 | あ、ああ……折角商売で貯めた金が……殆ど改造費用に…… |
| 藤崎 誠 | いいんだよ!これは有意義な出費だ! 速度も比較にならないし積載物も効率よく積めるようになった。 おまけに戦になれば船首のラムで体当たりして一気に敵艦を沈められるし 砲撃戦になったとしても砲の飛距離、砲門数、いずれもこっちの勝ちだ。 操業してみれば分かる! |
| 近藤 長次郎 | けんど……肝心の商材を買う資金がないがです…… |
| 藤崎 誠 | へっ!?……ないのか……!? |
| 陸奥 宗光 | 藤崎さんが改造資金とか言って根こそぎ持ってったんでしょうが! |
| 平井 加帆 | ……こういうオチなんですのね。 |
| 望月 亀弥太 | アホじゃ。藤崎は本当のアホじゃ…… |
| 沢村 惣之丞 | 仕方ない。どっかから借りるかのう…… |
| 平井 加帆 | 宛はございますの? |
| 新宮 馬之助 | ……あることにはあるけんど…… |
| 岡本 健三郎 | お、お慶さんか…… |
| 藤崎 誠 | ああ、女商人の大浦のお慶さんって人? それなら私も名前くらいなら聞いたことがある。 |
| 千屋 寅之助 | はい……そのお慶さんです。 |
| 池 内蔵太 | なんでそがに怯えちゅう |
| 高松 太郎 | ちくっと怖い方がですき、みんなあんまり行きたくないがです…… |
| 藤崎 誠 | ……怖いのか?商人が? |
| 陸奥 宗光 | う、うん……ちょっと飢えてる感じって言うか……。 噛み付かれたら最期、二度と元の世界に帰れなくなりそうって言うか……。 一生お慶さんに飼われることになりそうって言うか…… |
| 平井 加帆 | う、飢えてる……? 噛み付かれる……? なんですの? |
| 沢村 惣之丞 | い、行けば分かるがです。 けんど、おなごの藤崎さんと加帆さんは恐れる必要ないでしょう。 |
| 藤崎 誠 | なるほどね……なんか、どういう人種か分かる気がする……。 |
| 平井 加帆 | わ、わたくしもですわ……。 ……め、雌豹とか、そう言う感じの方なんですのね、きっと。 |
| 新宮 馬之助 | ……ご名答。 まさにその通りじゃ。 ほいたら行って貰いましょうか。 ……寅之助、今度はおんしの番やぞ。 |
| 望月 亀弥太 | 『今度』は……? |
| 岡本 健三郎 | なんだか怖いので、以前金を用立てて貰った際 毎月の返済に交代で行っちょったがです。 その借金に関してはもう完済してるがですけんど……。 |
| 千屋 寅之助 | そういうわけで……仕方ないので今回はわしが行きます。 ふ、藤崎さんらもついてきて下さい。 |
| 藤崎 誠 | ……怖い物見たさでついていくよ。 |
| 平井 加帆 | わ、わたくしも。 ……今後の参考になるかもしれませんし。 |
| 近藤 長次郎 | ……さ、参考!? |
| 岡本 健三郎 | ……わし、加帆さんがどんどん怖なる……。 |
| 池 内蔵太 | な、なあ。 ……わしも怖い物見たさで行ってええか? |
| 望月 亀弥太 | く、内蔵太が行くならわしも……。 |
| 千屋 寅之助 | ……ええがですけど、途中で逃げんで下さいよ。 |
| 池 内蔵太 | お、おう。 |
| 望月 亀弥太 | も、もちろんじゃ。 |
| 赤根 武人 | ぼ、僕は遠慮させていただきます……。 |
| 沢村 惣之丞 | ああ、そのほうがええ。 赤根君が一番賢いぜよ。 亀弥太も内蔵太も危険な場所に突撃する癖は相変わらずやにゃぁ……。 まあ、人数は多い方が心強いはずじゃ。 ……では、御武運を!! 総員敬礼!!! |
| 見送り一同 | 行ってらっしゃいませご主人様ーーっ!!! |
| 藤崎達 | いってきまーす! |
……スタスタスタ… |
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| 藤崎 誠 | ……ところで、なに? あの『行ってらっしゃい』は。 |
| 千屋 寅之助 | うちの決まりながです。 龍馬さんが決めたがです。 ちなみに『お帰りなさい』は こないだ上野さんが言うちょった “お帰りなさいませご主人様”です。 最近商売に船出してなかったんで言うてなかったがですけんど、 この苦境に思い出してしもうたがでしょう。 |
| 平井 加帆 | なんだか変ですわね。 |
| 池 内蔵太 | ……うん、変。 |
| 望月 亀弥太 | ……龍馬の考えることが変なのはいつもの事じゃ。 |
| 千屋 寅之助 | いや、それがこういう言い方もあるって教えてくれたのは 英さんみたいで……。 |
| 藤崎 誠 | 安永が? ……変なの。 |
| 池 内蔵太 | ……安永も龍馬と居って変なのがうつったのかも知れんにゃぁ。 |
| 千屋 寅之助 | さ、そう遠くはありませんよ。 ……心してかかって下さい。 気ぃ抜いたら負けですきに。 絶対に顔は笑うたらいかんですよ。 むしろ睨み付けるくらいで丁度ええです。 |
| 池 内蔵太 | (な、なんかすごい気合いやにゃぁ……ドキドキ……) |
| 望月 亀弥太 | (……ど、どんだけ凄いがやろう……) |
長崎:大浦地区:清風亭 |
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| 大浦 お慶 | いらっしゃい。 あら、亀山社中の……なぁに?またご用? それとも、あの約束が無理そうなの? |
| 千屋 寅之助 | いえ。 今日は別の用です。 |
| 池 内蔵太 | (すっ……凄いお色気……それに……え、ええ匂いじゃ……) |
| 望月 亀弥太 | (た、ただ存在するだけでこれか…… これに臆することのない寅もなかなかの豪傑じゃ……) |
| 藤崎 誠 | (凄いなぁ……いろんな意味で……) |
| 平井 加帆 | (わたくしも見習わなくちゃですわ……) |
| 大浦 お慶 | あらぁ。 可愛い子達連れてきたじゃない。 紹介なさい。 |
| 千屋 寅之助 | わし以外全員最近こっちに赴任してきた社員です。 こちらから藤崎誠、平井加帆、望月亀弥太、池内蔵太。 |
| 大浦 お慶 | うふふ、よろしくね。 |
| 藤崎 誠 | ところで、さっき言ってた『あの約束』って……? |
| 大浦 お慶 | 誠さん。 貴方の所の社長さんねぇ、うちの船で500両稼ぐって約束したのよ。 約束通り稼げたら船は社長さんの物。 |
| 池 内蔵太 | だ、駄目やったら……? |
| 大浦 お慶 | 社長さんが私の物になるのよ。 |
| 望月 亀弥太 | ひっ!!! |
| 千屋 寅之助 | ……龍馬さん、お慶さんの色香に負けて約束してしもうたがです。 それで、本社帰って正気になるとわしらに会社任せて逃げたがです……。 もんのすんごい明るい顔して“後は頼んだぜよー!”言うて。 |
| 望月 亀弥太 | あんの阿呆が!! だからわしらを代わりにこっちへやったが! |
| 大浦 お慶 | ……社長さんがいないなら 誰かが社長さんの代わりにならないといけないわねぇ。 |
| 藤崎 誠 | なるほど。 ……それならコイツが代わりになる。 |
ポンッ |
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| 千屋 寅之助 | ええっ!?わしっ!? |
| 藤崎 誠 | ま、がんばれよ。 |
| 望月 亀弥太 | うん、きばりぃや。 |
| 平井 加帆 | 確かに、動じない千屋様が適任ですわ。 |
| 大浦 お慶 | ……そう、社長さんがいないのは残念だけど 貴方も可愛いから許してあげるわ。 よろしくね。寅之助さん。 |
| 千屋 寅之助 | うっ……ううっ…… 負けてもええなんて思わん……絶対思うちょらん…… |
| 藤崎 誠 | あ、負けそうになってる…… ……あれっ?池? |
| 池 内蔵太 | あ、あうう……ま、負けたい…… |
| 平井 加帆 | ……見事にお色気に当てられてますわ。 |
| 望月 亀弥太 | あーあ……。 |
| 藤崎 誠 | で、正気なのは望月だけか。 |
| 平井 加帆 | ……望月様も先程より鼻息が荒いですわね。 もうそろそろ限界ではないですか? |
| 望月 亀弥太 | え、ええから早よう本題に入らんか。 |
| 大浦 お慶 | あら、そういえばご用を聞いてなかったわねぇ。 今日はどうしたの? |
| 藤崎 誠 | あの、またお金を貸して欲しいんですが……。 |
| 大浦 お慶 | またなの? |
| 平井 加帆 | 船の改造に使ってしまったんです……。 |
| 大浦 お慶 | 仕方のない子達ね。 いいわ、出してあげる。 |
| 藤崎 誠 | おおっ、太っ腹! |
| 大浦 お慶 | うふふ。 私は可愛い子達が足掻く姿がたまらなく好きなの。 それを見られるのなら投資もまた好きなのよ。 |
| 望月 亀弥太 | (は、はふん! わ、わしも……もう……駄目みたいじゃ……) |
| 藤崎 誠 | (あっ……負けた。) |
| 平井 加帆 | (まあ。駄目な人達ですわね。) |
| 大浦 お慶 | ふふっ、誠さんや加帆さんみたいな女の子には興味はないけど……。 |
| 藤崎 誠 | (見破られてる……) |
| 大浦 お慶 | 細腕で苦労している貴女たちを支援できるのも楽しいわ。 わたしも女の身で酷く苦労したから……。 |
| 平井 加帆 | ありがとうございます。 |
| 大浦 お慶 | でも、誠さん。 その男装はあまり好きじゃないわ。 やるなら女として堂々と生きて欲しい。 私はそうしてきたわ。 この男社会で働く事がどんなに辛くても 女だけは捨てなかったもの。 |
| 藤崎 誠 | けど……現実的に…… |
| 大浦 お慶 | そうね。 ……分からないことはないわ。 ここまで来るのにも 男の身としてでも並大抵の苦労じゃなかったでしょう? |
| 藤崎 誠 | ……はい。 |
| 大浦 お慶 | 戻るのは落ち着いてからでもいいの。 今共にあるみんなもきっと受け入れてくれるわ。 ……約束して? 必ず女に戻るのよ。 貴女が女の身でありながら日本を動かすことができれば 間違いなく世の女達の励みになる。 ……必ずできるはずだから。 そうすれば、もう女で在ることを理由に 男社会で我慢する必要なんてなくなるわ。 |
| 藤崎 誠 | ……分かりました。 そうですよね……私は、卑怯なのかも知れません。 |
| 大浦 お慶 | ごめんなさい……さっきのは言い過ぎたわ。 ただ、表へ出るのに 女ではいけないなんて考えないで欲しかったから……。 |
| 藤崎 誠 | ……ええ。 今、ほんの少し考えを改めました。 そうですよね、なんでもやろうと思えば…… |
| 平井 加帆 | うふふ。 ようやく藤崎様もみんなの言っていることが分かったんですのね。 隠し事なんて良いことではありませんわ。 |
| 大浦 お慶 | そうよ。 その男装のせいで窮屈な思いをすることもあるでしょう? ……疲れたらいらっしゃい。 相談相手くらいにならなれるわ。 |
| 藤崎 誠 | ありがとうございます。 |
| 大浦 お慶 | いいのよ。遠慮しないでいらっしゃい。 ……加帆さん、貴女は女社会で生きる身のつもりでいるのね。 |
| 平井 加帆 | ええ。 芸妓さんや有志の女性達と情報を交換しながら 時勢を動かしてゆくつもりです。 |
| 大浦 お慶 | そう。そうなのよね。 女って本来はそうやって女社会で糸を引いて 男社会を動かす役割を求められているものなのよね。 男達が大切な決断を迫られているときに一押しするのも女の役目。 ……誠さん。 男社会で戦うのなら、彼女たちと上手に連携する事よ。 絶対敵に回さないこと。 一番怖いのは女なのよ。 |
| 藤崎 誠 | 確かに…… ……心得ておきます。 |
| 平井 加帆 | 藤崎様でしたらその辺は大丈夫ですわ。 割とどこへ行っても上手くやれますから。 |
| 大浦 お慶 | うふふ、そうみたいね。 |
| 平井 加帆 | ところで、お慶さんって旦那様はいらっしゃるんですの? |
| 大浦 お慶 | ああ、あの亭主なら結婚してすぐに追い出してやったわ。 ……商売が下手くそでねぇ……うちの店潰しそうになったもんだから 慌てて金持たせて帰って貰ったのよ。 以来、女手一つでこの店を大きくして 今じゃ異国相手に商売するようになったわ。 |
| 平井 加帆 | ……カ、カッコイイですわぁ……。 |
| 藤崎 誠 | か、加帆さん。 西山のこと追い出したりしないでね……。 可哀想だから。 |
| 平井 加帆 | うふふ、わかりませんわよ……。 |
| 藤崎 誠 | (わからないって……!? ……アイツが聞いたら泣き崩れるな) ま、まあいいや。 じゃあ、お慶さん。色々とありがとうございます! このお金、無駄にはしません。必ず返します! |
| 平井 加帆 | 本当にお世話になりました! |
| 大浦 お慶 | いいのよ。またいらっしゃい。 |
| 千屋・望月・池 | うへへへ……またきまぁす! |
| 藤崎 誠 | いつまでもデレデレしてんなバカ共!! |
| バシッ!!! | |
| 千屋 寅之助 | ぐふっ!! |
| ビシッ!! | |
| 望月 亀弥太 | あうっ!! |
| バキッ!! | |
| 池 内蔵太 | い、いたい…… |
大浦のセクシーお慶に借金をした一行。
これでようやく商売が!
次回、亀山社中の改造船が出港!
