◆肉よさらば◆
操舵室 |
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| 平井 加帆 | 望月様、お疲れ様です。 お茶を淹れましたわ。お熱いうちにどうぞ。 |
| 藤崎 誠 | もうすぐオカだから気合い入れろよ。 |
| 望月 亀弥太 | おう、分かった。 加帆さんもありがとう。 ……それにしてもこの改造船は早いのう! こがに早い帆船初めて乗ったぜよ。 |
| 藤崎 誠 | 改造のおかげだけじゃない。 船員の実力と団結力だってあるんだ。 あとは私の采配が上手くいったってとこだな。 |
| 望月 亀弥太 | けんど、こがに直ぐに着いてしまうなが ちくと拍子抜けじゃ。 |
| 藤崎 誠 | バカ言うな。 浮いた時間でこれを何往復もして借金を返すんだ。 千屋は半分お慶さんに人質にとられてるようなもんなんだからな。 それよりも ちょっとでもサボると 給料すら払えなくなる状況だってのを忘れるな! |
| 望月 亀弥太 | ……そうか……借金のことがあった……。 オカ揚がったら少しの間でも陸上を満喫せんとなぁ……。 |
| 平井 加帆 | うふふ。 長州についたらどうしましょうか? |
| 藤崎 誠 | 今度こそ肉を食う! |
| 望月 亀弥太 | ……ま、まだあん時のことを根に持っちゅうが! |
| 藤崎 誠 | うるさい! 望月だって食う気満々のくせに! |
| 望月 亀弥太 | ……ま、まぁ、『出されたもんは残さず食べる』が信条やき……。 |
| 平井 加帆 | それでわたくしたちの分まで残さずにお召し上がりになったんですのね。 |
| 望月 亀弥太 | か、加帆さんまで……! ……スマンって何度も言うたやろう……。 食いもんの恨みは恐ろしいのう……。 |
――とまあ、こんなわけで 長州:下関:商家 |
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| 藤崎 誠 | うーん……仕方ない。 この程度の値ならいいとするか。 |
| 商人 | (……も、もうヤダ……この人粘りすぎ…… 早く解放されたい……) 今日は特別このお値段で買い取らせていただきます。 |
| 藤崎 誠 | 馬鹿言うな!このくらいがここらの相場だろうが。 こっちだってこれから何往復もしなきゃなんないから 値崩れしないように妥協してやってんだよ! |
| 商人 | (ゲッ!!!まだ来るつもり!?) あ、あはははは。 こ、今後ともよろしくおねがいしますよ。 あはははは……。 (あ、あんまりよろしくおねがいしたくない……) |
| 藤崎 誠 | 今度はもっと良い品持ってきてやるよ。 ……よし、じゃ、加帆さん。 私たちも飯食いに行こうか! |
| 平井 加帆 | そうですわね! |
| 赤根 武人 | 藤崎君!加帆さん! |
| 平井 加帆 | あら赤根様! |
| 赤根 武人 | 長州にいる間離れるなとか言っておきながら 置いていかないで下さいよ。 刺客に襲われたらどうするんですか。 |
| 藤崎 誠 | あ、ゴメン。 |
| 赤根 武人 | ……それと! 水夫達に給料支払いました。 この港で降りる者の代わりも既に雇いましたから ご安心下さい。 |
| 藤崎 誠 | 気が利くなぁ! にしてもそんな直ぐに集まったのか? |
| 赤根 武人 | ええ、船が立派なので 乗船してみたいという者が押しかけまして。 あきらめて貰った人の方が多かった程ですよ。 |
| 藤崎 誠 | へぇ……。 蒸気機関すら付いてないのに物好きな。 |
| 赤根 武人 | 機関よりも砲門数やラムに驚いたんでしょう。 |
| 藤崎 誠 | 今んとこ戦の予定もないのに? |
| 赤根 武人 | 予定がないからですよ。 ただ見学してみたいだけでしょう。 |
| 平井 加帆 | 仕事をしたいというよりは野次馬根性ですわね。 |
| 赤根 武人 | そうですね。 ……あれっ? ……あの方、野次馬にしては随分と品の良い…… |
| 平井 加帆 | ……あっ!! 幾松さん達ですわ!! |
| 藤崎 誠 | 桂さん!!! |
| 桂 小五郎 | ん!? 君たちの船だったか!? |
| 幾松 | まあ、加帆ちゃん、久しぶりやなぁ。 |
| 平井 加帆 | お久しぶりですわ! 幾松さんってば、ますますお綺麗になりましたわね! |
| 幾松 | 加帆ちゃんの方こそ! 藤崎はんは相変わらず凛々しいなぁ。 |
| 藤崎 誠 | ……あはは、傷も筋肉もますます増えましたよ……。 |
| 桂 小五郎 | ……む?……そこの君……もしかして……。 |
| 赤根 武人 | ……ばれましたか。……赤根です。 |
| 桂 小五郎 | 赤根君、こんな所にいては危険だ。 船内に居た方がいい。 |
| 赤根 武人 | 大丈夫です。 何かあっても藤崎君がいますから。 |
| 桂 小五郎 | 藤崎君も追われる身だろう。 ……それなのに白昼堂々と……まったく。 変わらないというかなんというか……。 |
| 藤崎 誠 | ……で、雲隠れしてたはずの桂さんが なんでこんな所で船の見物してるんですか。 |
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| 桂 小五郎 | まあ、色々と用があってこちらに来たんだが 港に凄い船がいるって噂で持ちきりになっていてね。 仕事にならないからちょっと覗いてみようと…… |
| 藤崎 誠 | それを“野次馬”って言うんですよ。 |
| 桂 小五郎 | しっ、失礼な! だいたい君は派手なことやって幕束に追い回されてる癖に そうやって目立つことばかりしていて……! |
| 藤崎 誠 | 桂さんだって引っ込んだまま出てこないと思ったら 一般人になりきって、他の女の子…… |
| 桂 小五郎 | (!!!) わー! 分かった分かった! もういい! ぜえ、ぜえ…… |
| 藤崎 誠 | なんだ、これから楽しくなるところだったのに。 |
| 桂 小五郎 | 何で君がそれを知っているんだ!! 京でのことといい、変なところで情報が細かいな……。 |
| 幾松 | ……“それ”って何どす? 小五郎はん。 |
| 桂 小五郎 | ひっ!あっ! なっ、なんでもないんだ。 ぼ、僕らは仕事があるからこの辺で…… |
| 幾松 | はぐらかさんで貰えます? ……なに?また浮気? |
| 藤崎 誠 | そうだよ!酷いんだよ桂さん!! いくら潜伏中で身分を明かせないからって ノリで結婚までしちゃって!! |
| 赤根 武人 | ええっ!? |
| 平井 加帆 | まあ!サイテーですわ! |
| 桂 小五郎 | ご、ごめん!違うんだ! あ、あれは決してノリなんかでは……!! |
| 幾松 | ノリやないってどういう事? ……本気やったって事? |
| 桂 小五郎 | ち、違っ! そういう意味じゃ……!! |
| 幾松 | 小五郎はんのアホ!! 別にうちなんか側に居らんでもええんやない!! それなのに……ずっとずっと嘘ついて こんなん傍から見たらうちがつきまとってるだけやない!! もうええどす! 小五郎はんの気持ちはよう分かりました。 うちも亀山社中に入らしてもらいます! |
| 桂 小五郎 | ええっ!? |
| 藤崎・加帆・赤根 | ええっ!?!? |
| 幾松 | うちかてひ弱なお嬢ちゃんとは違うんや! 加帆ちゃんみたいにぎょうさん勉強して ぎょうさん人の役に立つんどす! 藤崎はん!いきまひょ!! まずは腹ごしらえどす!!! |
| スタスタスタ…… | |
| 藤崎 誠 | あっ!幾松さん……! |
| 平井 加帆 | ちょ、ちょっと!! |
| 赤根 武人 | 桂さん!止めないんですか!? |
| 桂 小五郎 | ……ごめん。 今、幾松を止めてはいけない気がする……。 |
| 平井 加帆 | どうしてですの!? |
| 桂 小五郎 | このまま僕の元に縛り付けておくのは申し訳ない気がするんだ。 幾松ならもっと自分のために生きてみてもいいんじゃないだろうか。 あれだけしっかりしているのだから良い人生が拓けない訳がない……。 他にはいないこの世にたった一人の存在だから……。 僕の一存で未来を握りつぶしてしまうのは とても残酷な事のように思えて仕方がないんだ……。 |
| 藤崎 誠 | バカッ!!! |
| バキッ!! | |
| 桂 小五郎 | くっ……暴力は良くないぞ! どんなに殴られようが僕の気持ちは変わらない! 藤崎君。 幾松のことを頼んだ!! |
| ダッ…… | |
| 藤崎 誠 | あっ!!!逃げた!! |
| 平井 加帆 | ……ああっ!人混みに紛れて見えなくなってしまいましたわ……!! |
| 赤根 武人 | ……困りましたね……。 |
| 平井 加帆 | 本当は自分の意志とは違う力で惹かれ合っていて どうしようもなくなってしまっているのに…… うふふ。 仕方のない方達ですわ。 |
| 藤崎 誠 | ほんっと! 毎度めんどくさいわよね。 |
| 平井 加帆 | ……まあ、またほんの少し 面倒を見て差し上げましょうか。 今回は藤崎様が余計なこと仰ったのもありますし。 |
| 藤崎 誠 | あ、あれは 私が言っておかないと 後でバレたら余計大変になりそうだったからなの! |
| 平井 加帆 | はいはい、分かりましたわ。 うふふ。 |
| 赤根 武人 | じゃあ、幾松さん“腹ごしらえ”って言ってましたから その辺の飯屋を探してみましょうか。 |
| 藤崎 誠 | そうね。 |
長州:下関:食事処 |
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| 藤崎 誠 | あっ!いたいた! |
| 赤根 武人 | 空のどんぶりが山積みになってますね……。 あっ!望月君と千屋君も一緒ですか! |
| 千屋 寅之助 | わしらが飯食うてたら 幾松さんが来たもんやき、相席にしたがじゃ。 |
| 望月 亀弥太 | うーん。美味かった。 |
| 平井 加帆 | なるほどですわ。この山積み、理解しましたわ。 幾松さん。探したんですのよ? |
| 幾松 | 藤崎はん。 加帆ちゃんも赤根はんも望月はんも千屋はんも これからよろしゅうたのんますえ! オバチャン!ご飯お代わり! |
| オバチャン | あいよ! |
| 千屋 寅之助 | えっ!?まだ食うがですか!? |
| 望月 亀弥太 | 幾松さん食い過ぎじゃぁ! |
| 藤崎 誠 | ……えっ!? これって望月じゃなくて幾松さんが……!? |
| 望月 亀弥太 | そうじゃ。 わしが食うたのは目の前のどんぶり2つ分だけじゃ。 |
| 千屋 寅之助 | わしは1つだけ……。 |
| 藤崎 誠 | い、幾松さん……やめようよ……。 |
| 幾松 | ええのええの! うちも藤崎はんみたいに逞しゅうならんとね! |
| オバチャン | はい、ご飯! |
| 幾松 | おおきに! |
| 赤根 武人 | ……色んな意味で心配ですね……。 |
| 藤崎 誠 | ……うん。 私、幾松さんが太ったところなんて見たくないよ。 |
| 平井 加帆 | ま、まあ、気を取り直してわたくしたちも食事にしましょう。 藤崎様が取引で粘りすぎて時間もなくなって参りましたし。 |
| 赤根 武人 | そうですね。 僕も幾松さんの食べっぷりを見たらお腹が空きました。 早いとこ注文しましょう。 ……すいませーん! 牡丹鍋三人前お願いします! |
| 藤崎 誠 | あ!私、ご飯特盛りでお願いね! |
| オバチャン | ごめんねぇ。 米切らしちゃってさ! 今日はこれで店じまいにするんだ。 |
| 藤崎 誠 | ……がぁぁあぁぁん!!! |
| 赤根 武人 | そ、そんな……。 |
| 平井 加帆 | し、仕方ないですわ。 他に行きましょう……。 |
| 望月 亀弥太 | けんど、出航時間もうすぐやろう。 にぎりめしとか船内で食えるようなもん 包んで貰うようにした方がええぞ。 |
| 千屋 寅之助 | そうやにゃぁ。 何しろ藤崎さん艦長やき。 |
| 藤崎 誠 | く、くそう……!!! また肉食い損ねたーーーー!!!! 望月!千屋! …よくも!!! |
| 望月 亀弥太 | ええっ!? 何故わしら!? |
| 千屋 寅之助 | な、何もしてないのに!? |
| 藤崎 誠 | うるさい! アンタ達が食わなきゃ丁度足りたんだよ!!! |
| 望月 亀弥太 | めちゃくちゃなーーー!!! |
藤崎と加帆さんがまたしても肉を食い損ねたのはさておき
物の弾みで同行することになった幾松さんと
下関で買い付けた品をつれて
再び長崎へ戻る一行でした。
